自然に帰れ
町が私を包んでいる。
毎朝の通学電車。
無機質な校舎。
街灯が照らす夜道。
気づいたらそこにあったから疑いもしなかったけれど、私は町に縛られている。
町がないと生きていけない仕組みになっている。
言葉が私を包んでいる。
おはよう。
ありがとう、嬉しい。
それはだめだと思う。
好き。
さようなら。
言葉にできるものは存在して、できないものは存在しないことになっている。
そんなつもりはなくてもなっている。そういうものらしい。
時間が私を包んでいる。
今年があと2か月で終わる。
今日が過ぎれば明日が来る。
時計を見ると10分が過ぎる。
過ごしている流れをいくつかの部分に切り分けて時間を取り出している。
見えないけれど何かが動いているのだろうか。
夜の海に来た。
誰もいない。
夜の海はとても暗い。
どこまでもどこまでも黒が広がっている。
その先は何も見えない。
音が聞こえる。
規則的なようで規則的でない。
それは海の黒をびりびりと破りながら行ったり来たりする。
町にも、言葉にも、時間にも包まれない私。